
- 水野先生のお話<後編>
- すべての赤ちゃんに母乳を ~さく乳器と母乳バンクのお話~
母乳には赤ちゃんに必要な栄養だけでなく、人工的には作り出すことのできない、抗体や免疫因子、酵素、白血球など赤ちゃんの免疫機構を作るための物質が多く含まれています。
人工栄養で育ったお子さんに比べると、様々な感染症のリスクが減ります。乳幼児突然死症候群や白血病、ぜんそくやアレルギー性疾患のリスクが減ることも研究により広く知られています。さらに母乳には、知能と神経の発達を高めるという働きもあるのです。
まず、子宮が早くもとの状態に戻ります。産後すぐに赤ちゃんがおっぱいを吸うことでオキシトシンというホルモンが出るのですが、この物質が子宮を早く回復させる働きをしてくれるんですね。続いて妊娠中に増加した体重が、出産前の体重に早く戻ります。
さらに授乳をしていると月経が戻りにくくなりますから、余分な出血を防いで貧血になりにくくなります。また、乳がん、子宮体がん、卵巣がんといった女性特有のがんになるリスクが低下します。
それから最近注目されているのが、生活習慣病にかかるリスクが減るということ。子育てが落ち着いて一息ついた頃、糖尿病になる女性が増えています。母乳育児を続けることで、糖尿病をはじめ過体重、脂質異常症(高脂血症)、心筋梗塞などのリスクが減りますので、お母さんの健康にとって、大きなメリットがあるということですね。
さまざまなリスクの減少率はトータルの授乳期間がどれくらいあるか、ということに関係します。例えば3人のお子さんを出産した方がそれぞれ一年間授乳したら、授乳期間は3年間。おひとり出産した場合、その子に3年間授乳し続ければ同じ期間授乳したことになりますよね。
授乳期間は長ければ長いほどいいのですが、次のお子さんを出産するか否かということも関係してくるでしょうし、お母さんのライフスタイルにもよりますよね。
大切なのは、メリットうんぬんということよりも、女性の体は妊娠中に母乳で育てるように変わっていくわけで、母乳で育てるということが人間の本能であり自然の摂理であるということだと思います。ですから授乳期間も他の人が決めることではなくて、お母さんとお子さんが決めればいい。あげたいだけ、欲しがるだけ、あげればいいのです。
よく「6ヵ月で母乳の免疫成分はなくなる」と思われているお母さんもいらっしゃいますが、母乳の栄養と免疫成分はなくなりません。自分の納得できる期間だけ、赤ちゃんと相談しながら様子を見ながら、あげることが大切です。
まず、母乳育児をサポートしてくれる産院を選ぶことが重要です。母子同室ということだけでなく、看護スタッフみなさんがお母さんを応援しようという愛情を持ったやりとりをしてくれるかどうかということも大事です。
次に"サポーター"を見つけること。身近な人でもいいですし、母乳育児の専門家だとなお良いですね。職場復帰であったり、「1歳になったからやめましょう」という周囲の声だったり...そういった、これから立ちはだかる" 障壁"に負けない心づもりをしながら、サポーターと一緒に自分の満足のいく母乳育児を目指すことが大切です。
あとは自信を持って「出るんだ」と思うこと。女性は妊娠して出産すれば母乳は出る。神様はそういうふうに作ってくれていますので、「私は母乳で育てられるんだ」と思いながら子育てに臨んでほしいですね。
赤ちゃんが欲しそうにしていたらどんどんあげる。それに尽きると思いますね。あとは適切な抱き方、おっぱいが痛くないようなふくませ方をサポートし、赤ちゃんがしっかり飲んでいるかどうかというのを確認するようにしています。
人工乳から母乳に戻すには、どれくらいの期間母乳を止めたかにもよりますが、専門家の支援が必要です。混合の場合は、どれくらい粉ミルクを足しているかによりますね。
でも、混合でもいいんですよ。だって母乳をあげていることには変わりないわけですから。それを自分がどう捉えるかだと思います。「もっと母乳をあげたかったのに」とマイナスに捉えるか、「混合でも母乳をあげている」とプラスに捉えるか。そういったお母さんの気持ちの持ちようによっても、母乳の出方は変わってきます。
ですから、今自分がやっていることを少なくとも後悔しない。自分を責めない。"あのとき私ががんばらなかったから今粉ミルクを足してしまっている、かわいそうなことをしてしまっている"と思わない。"私は粉ミルクを足したけどおっぱいもあげている"と自信を持つこと、赤ちゃんを抱きしめながら、自分がしてきたことが間違いではないんだ、という気持ちを持ってもらいたいです。
<後編に続く>